「薬局ビジョン」にみる、これからの薬局の在り方
平成27年に厚生労働省が発表した「患者のための薬局ビジョン」では、現在の薬局の課題を指摘するとともに今後の在り方を変化させていく必要があるとしています。
これまで推進してきた「医薬分業」においては、薬剤師が患者様の状態や薬を一元的・継続的に把握することで、薬物療法の安全性や有効性を高められるメリットがありました。
しかし一方で、患者様が医療機関を受診するたびに異なる薬局で調剤を受けるシーンが多くなり、本来目的としていた「服薬情報の一元的・継続的な把握」が困難になっているのではないかという課題もありました。
ここからは、「患者のための薬局ビジョン」で示されているポイントを具体的に解説していきます。
「門前」から「かかりつけ」への移行
先述した通り、患者様がそれぞれの医療機関の門前薬局にかかることで医薬分業のメリットを実感しにくいという実態が指摘されています。こうした背景のもと、推進されているのが「かかりつけ薬剤師」です。
これからの時代、薬局は患者様が薬について安心して相談でき、それぞれに最適な処方ができるような存在を目指すことが求められます。
そのためには、調剤業務を行うのみでなくコミュニケーションを重視して対人業務にシフトし、「かかりつけ」として一人ひとりの患者様に継続的・長期的に向き合える体勢を整え、選ばれる存在になっていかなくてはなりません。それにともない、従来の「立地優先」の薬局経営から「機能優先」の薬局にシフトチェンジしていく必要があるでしょう。
こうした課題に向き合い、「かかりつけ薬剤師」として継続的に処方を担当し、多剤・重複投薬や相互作用を確認して医師に提案できるようになれば、より安全で満足度の高い医療を提供できるようになります。
地域包括ケアシステムと服薬情報の一元・継続管理の実現
「地域包括ケアシステム」とは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを送ることができるよう地域の医療や介護生活の支援、介護の予防が継続的に提供されるシステムのことを意味します。
そして「かかりつけ薬剤師」としての立場を確立することは、地域包括ケアシステムの一翼を担うことにつながります。
患者様が複数の医療機関を受診した場合でも、かかりつけ薬剤師として処方を一元管理できれば過去の服薬情報が把握でき、「薬や体調についていつでも相談できる存在」として地域の医療をつなぐ存在となります。また、在宅で療養する患者様に対しても柔軟なサポートが可能になります。
一人ひとりの患者様に対してより適切な処方を行うためには、個々の薬局で情報を持つのではなく、ひとつの薬局が継続的に情報を持ち蓄積していかなくてはなりません。服薬情報の一元・継続管理の実現も、今後薬局が目指すべき目標として挙げられています。
対物業務から対人業務への役割の変更
かかりつけ薬剤師としての役割を発揮するためには、業務面での変革も必要です。
従来の薬剤師業務は、以下の表に示されるように薬を中心とした業務が主でした。しかし今後、数ある薬局の中から「かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師」として選ばれるには、薬剤師としての専門性やコミュニケーション能力の向上が不可欠です。
薬中心の業務(対物業務) | 患者中心の業務(対人業務) |
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薬中心の業務(対物業務) |
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患者中心の業務(対人業務) |
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出典:「患者のための薬局ビジョン概要」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/gaiyou_1.pdf) 「患者のための薬局ビジョン概要」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/gaiyou_1.pdf)を加工して作成
「かかりつけ薬剤師」が定着するにつれ、これまで以上に一人ひとりの患者様に向き合うことが求められるでしょう。患者様や地域住民のニーズに応え、いつでも気軽に相談できるような、地域に根差した存在となっていく必要があります。